小山 浩一
前回は新契約に係る年換算保険料をベースに市場シェアを見てみました(前々回は保有契約)。全体として上位3社累積集中度が低下していること、ハーフィンダール指数を見ても低下が続いていることから、生命保険市場は保険会社のどこか一つが強力な状態とはいえず、競争状態が激しい方向へシフトしてきたと考えられます。
さて、生命保険というと死亡保障を中心とした保険のイメージが過去にはありましたが、現在では医療保険やがん保険など第三分野の保険が主力の一つとなっています。この保険は危険差益(=実際支払-予定支払)が大きく、保険会社の大きな収益源となっていたと考えられます。しかし、この第三分野保険も相当競争が激しくなってきたと言われています。そこで第三分野保険に絞って新契約に係る年換算保険料をベースに市場の状況を整理してみました。
まず第三分野新契約に係る年換算保険料は、18年度(19年3月末)7790億円9200万円から19年度(20年3月末)5633億円6700万円、20年度(21年3月末)には4829億円5千万円まで下がっています。
上位1位社の市場シェアは、19年3月末14.23%に上昇していましたが、その後反転、21年3月末8.94%をまで急減しています。18年度(19年3月末期)の上位1位社は法人契約による第三分野保険が大きかったと思われます。この第三分野の法人契約は税制上のメリットを追求したもので、その後税制改正によりその市場自体が消滅に近い状態になっています。したがって19年3月末期のこの数値は例外と考えたほうが良いと思われます。
さて個人家計による医療保険やがん保険などの利用というオーソドックスな状態を想定してみると、上位1位社は21年3月末期8.94%です。この上位1位社の市場シェアはあまり大きな位置を占めているとは言えないようです。
上位3社累積集中度を見ると、20年3月末30.66%から21年3月末25.33%.となり低下しています。寡占状況を示すHHI(ハーフィンダール指数)も同様に18年3月末0.062422から21年3月末0.051494まで低下しています。
第三分野保険は保険会社にとって収益性が高く、保険会社各社もそこに経営資源を投下してきたと思われます。しかし多くの保険会社がそこに力点を置いたことで現在では全競争の激しい状況になっています。保険会社各社は今後もここ(第三分野市場)に力点を置いて経営資源を投入していくのか、今後の市場戦略を注視したいと思います。
参考 第三分野新契約年換算保険料ベースの市場状況※
2017年度(18年3月末) |
2018年度(19年3月末) | 2019年度(20年3月末) | 2020年度(21年3月末) | |
上位1位社シェア | 10.89% | 14.23% | 10.83% | 8.94% |
上位3社累積集中度 | 31.41% | 32.38% | 30.66% | 25.33% |
ハーフィンダール指数 | 0.062422 | 0.066904 | 0.057981 | 0.051494 |
第三分野新契約年換算保険料 | 6959億8000万円 | 7790億9200万円 | 5633億6700万円 | 4829億5000万円 |
※上記市場状況の数値は、生命保険協会「事業概況」データCD-ROM)をもとに筆者計算によるものです。