今回はドイツを取り上げます。NISA関連でEU諸国はあまり話題になっていません。しかし先進諸国の主要な一角を占め、またGDP上位に存在する国々の状況を確認することは俯瞰的に市場や投資対象を検討する意味で重要です。「今」上昇したり、話題になったりしている市場や資産を見ることはだれでも行いますが、10~数10年の期間における資産形成を考えているなら、「今」話題になっているものだけを見るのは危険かもしれません。
さてそれではまずドイツの名目GDPと株式時価総額の推移を確認しましょう。図表1にドイツの名目GDPと株式時価総額推移を示します。
図表1ドイツ名目GDPと株式時価総額推移 (図表1およびこの後出てくる図表2とも名目GDPはIMF,株式時価総額は世銀から筆者集計により作成)
名目GDP(図表の青線)は1990年から95年まで上昇、その後2001年まで下落、さらにその後2008年まで大きく伸び、その水準で以降上下動を繰り返しながら微増しているような形状となっています。
1990年から10年単位で年平均成長率をみると名目GDPは
90~00年 1.82% 00~10年 4.06% 10~20年 1.20% となっています。
10年単位でみると、年平均成長率はあまり高い値となっていません。これはインフレが低位にあったことが背景にあると思われます。また図表の名目GDPの線で分かる通り、10年の間で上昇時期と下落時期があり、それが相殺しあって10年間の単位で低い値となっていると思われます。
次に株式時価総額ですが、全体として名目GDPを下回る位置で推移(図表の茶色線)していることがわかります。
株式時価総額について10年単位で同様に年平均成長率をみると、
90~00年12.28% 00~10年0% 10~20年5.3%
となっています。
ドイツの株式時価総額は2001年まで大きく上昇し、その後大きく下落、2001年水準に復するのは2006年です。その後上昇するも2008年に大きく下落、以降、上下動を繰り返しながら上昇傾向を示しています。時価総額の上下動が比較的大きいことが特徴のように見えます。
名目GDPと株式時価総額の関係
ドイツの場合、名目GDPの成長と株式時価総額の増大は、株式時価総額が下方に位置する形で両者が成長しています。両者の乖離の状況を下表に示します。
図表2 株式時価総額/名目GDP
単位:百万ドル | 1990 | 1995 | 2000 | 2005 | 2010 | 2015 | 2020 | 2021 | 2022 |
名目GDP | 1兆5986億40 | 2兆5880億2 | 1兆9488億43 | 2兆8484億38 | 3兆4024億44 | 3兆4024億44 | 3兆8846億15 | 4兆2813億48 | 4兆0856億81 |
株式時価総額 | 3553億11 | 5773億74 | 1兆2702億43 | 1兆2021億36 | 1兆4297億19 | 1兆7158億00 | 2兆2841億09 | 2兆5030億46 | 1兆8896億64 |
株式時価総額/名目GDP | 0.22 | 0.22 | 0.65 | 0.42 | 0.42 | 0.51 | 0.59 | 0.58 | 0.46 |
ドイツでは2022年まで一貫して「名目GDP>株式時価総額」という関係で、その比率(株式時価総額/名目GDP)は90年0.22でした。90年段階では株式時価総額は名目GDPの22%程度でした。そこから5年単位でみると(上表の通り)95年0.22、00年0.65、05年0.42、10年0.42、15年0.51、20年0.59、そして22年に0.46となっています。株式時価総額は長期で上昇していますが、上下動の幅は大きく、名目GDPとの対比でも50%水準に復し(2000年65%、その後下落して15年51%)ましたが、22年には46%と5割を下回っています。
前回見た中国と比べてみると、「名目GDP>株式時価総額」の位置関係では同じ状況となっています。しかし株式時価総額の名目GDPとの割合では2015年以降50%程度での推移となっており、中国(2015年以降74%以上)と比べて小さくなっています。
次回は日本をみてみます。
(小山 浩一)