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リスク認知

リスク認知について筆者は、「人間に特有なリスク推定の認知プロセスやその推定結果のこと」と定義していますが、もっと平易には「リスクの主観的・直感的認知や判断のこと」と言ってよいと思います。例えば遺伝子組換え食品や食品添加物、あるいは極めて低いレベルの放射線や電磁界などについて、専門家は人体へのリスクは小さいと判断していますが、市民は人体への大きなリスクや不安を感じる傾向があります。なぜこのような差異が生じるかについては、専門家の判断の仕方や拠り所と、市民の判断の仕方や拠り所とが異なることが、これまでのリスク認知の研究において指摘されています。専門家は、例えば年間死亡率や平均余命、統計的確率や工学的指標など、科学的・客観的な指標をもとに判断するのに対し、市民は、特定の出来事の目新しさや鮮明さ、事故時の悲惨さの程度、自分がそれをどのくらいコントロールできると思うか、被害は直ぐに分かるか遅れて分かるのか、いわゆる五感などで知覚することができるか、自然に存在するリスクかそれとも人工物によるリスクか、などにより直感的な判断を行うことが多いことが、リスク認知の研究より示されています。そのため市民のリスク認知は、科学的・客観的な指標からかけ離れていたり、専門家の判断とは大きく食い違っていたりすることがあり、このギャップはリスク認知のバイアス(偏り、歪み)と呼ばれています。

 

市民にこのようなリスク認知バイアスが生じやすい理由として、筆者は次の2つの理由を挙げています。まず1つ目は、人間は生得的に、あるいくつかの科学技術や化学物質、事故などのリスクを判断する際に、様々なバイアスが掛かり易い認知的性質を備えていることであり、これは人間の生来的な特徴であるといえます。次に2つ目として、例えば遺伝子組換え技術や放射線などの、対象となる科学技術や化学物質などに関する基礎知識が不足しているばかりで無く、リスクに対する基本的な考え方、すなわちリスクリテラシーが不足していることが挙げられます。このリスクリテラシーについては、コラム④で解説していますので、そちらを参照して下さい。そのため、もしリスク教育や専門家になるための特別な訓練を受けずに成長すれば、市民の多くの者がそのような認知バイアスを生じ易いと言えます。そしてこの点からも、リスク教育の意義や必要性が示唆されるのです。      

 (田中 豊)