情報・コラム

保険の理屈と「コロナ保険」

 

「コロナ保険」が保険料の大幅引き上げや販売停止になってメディアを騒がしているようです。感染率を見誤って保険収支が成り立たなくなったとか、不正な保険加入(実質陽性判明してから、加入したのではないか)の憶測など、取り上げ方は同じような状況と思えます。数日前の報道で一つ追加された視点は、保険離れが進む若年層など新たな顧客層の開拓という思惑が保険会社側にあったという内容です(日経新聞22412日)。

さてここでメディア報道と同じことをしても意味はないので、そもそも保険の理屈から整理してみたいと思います。

まず、原理的な意味での保険をイメージしてみます。たとえば住宅の火災保険。3000万円の価値のある住宅があって、これが火災で焼失してしまったとしましょう。すると3000万円の価値がその住宅を所有する人にとって失われます。この住宅に、3000万円の火災保険がつけられていて、焼失した際、3000万円の保険金が支払われます。この場合、「3000万円の価値が失われた」ことに対応して「3000万円の保険金支払い」があります。

仮に火災保険が付けられていなければ、火災によって3000万円の価値(住宅)が失われます。保険の基本的な考え方はここにあると考えられます。当然、このような保険を第三者が勝手に他人の持ち物に付けたりすることはできません。これができてしまえば、他人の財産に保険を付け、その財産を棄損して保険金を不正に得ようとする可能性が出てしまいます。

以上の内容は、保険理論では、被保険利益(経済的損失を被る可能性のこと)があるもののみ損害保険契約を有効に締結できるとする原則となっています。また利得禁止原則(保険契約により保険加入者が利得をすることは許されないとする原則)が規定されています。ここで確認すべきは、これらは損害保険において規定されているという点です。

次に人を対象とした保険を考えると、このような原理的な(単純な)保険を想定することが難しくなります。そもそも人が病気にかかって金銭的な価値として失われるものを明確に(住宅の火災のように)想定することは困難です。そこで普通は、医療費がかかる自己負担をカバーする意味で医療保険やがん保険が登場します。

コロナの場合、自己負担の医療費はかかりません。直接的な医療費をカバーする保険の必要性は、普通に考えればありません。間接的にかかる費用はあるかもしれませんが、これはコロナに限った話ではないでしょう。したがってコロナ保険が固有に必要ということはないと考えられます。

しかし、コロナに感染してひょっとしたら(軽症や無症状ですむかもしれず)お金が得するかも、という利得目的の保険の可能性は生じます。人を対象にしているので、もともと損失が明確に定義できないため、このような保険が存在すること自体は不法ではありません。先にみた被保険利益や利得禁止原則は適用されません。

人を対象とした保険の場合、結局、損失をカバーする部分と一定の利得部分の合計で成り立っているように思われます。もともと損失と利得を分けることはそれほど簡単なことではありません。自己負担の医療費と、間接的にかかる費用(急に入院になったのでパジャマをあわてて買ったとか、石鹸を購入したとか、いろいろありそうです)、更にそれを超えて精神的ダメージをカバーするためにお金があったほうが良いとか、あげればきりがありません。

といってもコロナ保険の場合、直接的な医療費カバーが必要ない(自己負担がない)ので、主に利得部分のみを目的とした保険という点は明確のように思います。

さて問題は社会的存在として保険業が、このような「損失カバーがほとんどない利得目的の保険」を提供し、加入を促進することが、妥当なのかという点です。

今回の話から、「売れたら良い」とする古典的な業界体質を想像するのは私だけでしょうか。この辺は、様々な意見がありそうです。

 (小山 浩一)