(株)長坂保険コンサルティング 代表取締役 長坂誠司
もともと保険業法は契約者保護を目的としている。保険を消費者が利用する際、保険に関する詳細を事前に把握していることはほぼない。そのため保険について業者から聞くことになる。保険を案内することを保険募集といい、それを担う業者の健全性を確保するための規制を保険募集規制と呼んでいる。
保険募集を担う組織のうち、保険会社と委託契約を結んでいる業者が保険代理店である。この保険代理店が大型化(代理店のもとで保険募集に従事する人間の数が増大)したことで、募集規制は詳細化し、専門化してきている。そこで、この場を借りてこの10年間の保険業界の動きを振り返ってみよう。
ポイントはいくつかしかないがそれぞれのインパクトが大きく業界の再編を促したのは事実だ。
・委託型募集人の適正化
・改正保険業法施行までのプロセスと施行時の大混乱
・顧客本位の業務運営(FD宣言の常に改善を続けることを発出する金融庁)
委託型募集人は、保険代理店に雇用されたものではなく、保険代理店から委託契約で保険募集を行うものを指している。本来、保険代理店は、保険募集の健全性を確保するために、そのもとで保険募集を担う代理店使用人(保険代理店の雇用された社員)に対して教育・指導・管理を行う必要がある。しかし委託型募集人は雇用管理されていないから、かなりいい加減になる。
いつのまにか委託型募集人が増大していたなか、2013年12月25日、保険業界に激震が走った。
生命保険協会、損害保険協会、日本損害保険代理業協会、外国損害保険協会のメーカー側業界団体に加え、大手保険代理店で構成される保険代理店協議会(当時の名称、現在は保険乗合代理店協会)にターゲットを絞り、(金融庁は)彼らを呼び出した。
そこで申し渡されたのは保険業法128条*1に則り、報告徴求命令を前提とした「適正化」という文言である。それまでは委託型募集人の「調査」、「見直し」などの言葉での対話があったが、この日から「適正化」という表現に変わった。つまり「法令違反と判断し、それを前提とした適正化」というスタンスを明確にしたのである。
その後、乗合代理店は代申保険会社からの調査を受け、現状が明らかになっていく。すなわち、大半の訪問販売型保険募集人については雇用主である代理店が社会保険料を支払っていない、募集人の自宅を支店登録している、自家用車を業務の用に供しているなど多くの問題が明らかになった。要するに雇用していない委託関係にあり、雇用されたもののような管理などしていなかったという話である。
適正化の段階に入ると特に社会保険料については、保険代理店経営者(言い換え:雇用主)、募集人(言い換え、委託募集人←雇用人)ともに雇用関係に基づく社会保険料の納付となるため、抵抗感は大きく、業界団体幹部から順に適正化していくものの、「正直者が馬鹿を見る」状態が続く。その中で当局は、法令に基づく代理店への直接検査を行うことで適正化を促進した。結果として7年を経た今、一部に残存していると噂されているものの、大半が血を流した「適正化」の実現にいたる。
当時を振り返ると、このような状況下で、その後メーカーとディーラーである一部の代理店の協業による「手数料に偏った保険募集」が横行する。その結果として保険業法改正へと続く。
(来月、この場で続き掲載を予定)
なお、関連事項の詳細は
私のダイヤモンドオンラインの執筆(以下は5/24号)
https://diamond.jp/articles/-/271932
及び
弊社のホームページ
をご覧下さい。
*1保険業法128条
(報告又は資料の提出)
第百二十八条 内閣総理大臣は、保険会社の業務の健全かつ適切な運営を確保し、保険契約者等の保護を図るため必要があると認めるときは、保険会社に対し、その業務又は財産の状況に関し報告又は資料の提出を求めることができる。
2 内閣総理大臣は、保険会社の業務の健全かつ適切な運営を確保し、保険契約者等の保護を図るため特に必要があると認めるときは、その必要の限度において、当該保険会社の子法人等(子会社その他保険会社がその経営を支配している法人として内閣府令で定めるものをいう。次項並びに次条第二項及び第三項において同じ。)又は当該保険会社から業務の委託を受けた者(その者から委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)を受けた者を含む。次項並びに同条第二項及び第三項において同じ。)に対し、当該保険会社の業務又は財産の状況に関し参考となるべき報告又は資料の提出を求めることができる。
3 保険会社の子法人等又は当該保険会社から業務の委託を受けた者は、正当な理由があるときは、前項の規定による報告又は資料の提出を拒むことができる。