情報・コラム

家計収支検討の枠組み

老後に向けた資産形成の必要性が叫ばれています。その関連で金融教育や投資に関するテーマが取り上げられているようです。これらの議論の前提となる家計収支の数値は、ほとんど総務省「家計調査」をもとにしています。しかし、家計調査の数値が取り上げられるわりには、そこでの用語の定義上の確認が行われず、混乱した取り上げられ方も散見されます。そこで、実際の家計調査の数値を確認しながら、家計調査の数値と、我々の実感にあった議論の間の乖離を確認し、どうすれば埋められるか、共通の土台で検討できるか整理しておきたいと思います。

 勤労世帯の家計収支

  勤労収入  その他収入  収入計  非消費支出  可処分所得  消費支出      黒字
 56万4011円  5万3643円  61万7654円  11万6740円  50万 914円  32万 627円 18万 287円
   91.3%    8.7%  100 (税・社会保険料)

(収入計-非消費支出)

  (可処分所得-消費支出)

(「家計調査」2022年「二人以上の世帯のうち勤労世帯 全国」より抜粋して筆者作成)

まず内容としてみると勤労世帯なので、勤め先収入が多く91.3%を占めています。税・社会保険料支払い後の可処分所得が約50万円。そこから消費支出約32万を支払っています。残りは18万円、これが黒字です。

さてその消費支出ですが、これはイメージ的には食べたり、使ったりして消えてなくなる支出です。家計調査では「食料」「住居」「光熱・水道」「家具・家事用品」「被服及び履物」「保健医療」「交通・通信」「教育」「教養・娯楽」「その他の消費支出」の10項目に区分されています。

ここで我々の実感との乖離問題です。例えば消費支出としての「住居」費用とはなんでしょうか?これは単純にいうと家賃です。住宅ローンは該当しません。したがって家計調査の「住居」の数値(金額)は、我々の想像する「家賃」感覚に比してかなり少額と思われる値となっています。2022年家計調査によると、二人以上勤労世帯における住居費は2115円、高齢無職二人以上世帯住居費16741円となっています。この費用の低さの理由は、持ち家世帯を含めて平均を算出しているためです。

 一方、持ち家世帯の場合、住宅ローンを背負っている世帯は多いでしょう。しかし住宅ローンの支払いは、消費支出ではないので、上記の消費支出の「住居」に計上されません。

家計調査の家計収支を見る場合、一般的には可処分所得から消費支出を差し引くと残りが黒字で、これが貯蓄できる金額になるという話になっています。しかしこれはかなり俯瞰した見方で、家計調査の数値をさらに踏み込んでみると、そのようにはなっていないことがわかります。すなわち消費支出と別の支払いである「実支出以外の支払い」が存在します。そこで「実支出以外の支払い」を見てみます。

 家計調査における「実支出以外の支払い」は「預貯金」「保険料」「有価証券購入」「土地家屋借金返済」「他の借金返済」「クレジット購入借入金返済」「財産購入」「その他」に区分されます。「預貯金」「有価証券購入」は貯蓄の一つでしょう。また「保険料」も個人年金保険料や生命保険料の一部は貯蓄になるかもしれません。しかし自動車保険や火災保険などは、保険事故が起きた時だけ給付があるものなので、通常の貯蓄とは性格が異なります。また「土地家屋借金返済」は(住宅ローンはここに含まれる)負債の減少のための支払いです。同様に土地家屋以外での借金返済やクレジット購入借金返済も「実支出以外の支払い」に区分されています。

大きく見ると「実支出以外の支払い」は資産・負債の増減に関わる支払いです。そうすると我々の実感にあう検討の仕方としては

〇収入―非消費支出(税・社会保険料)=可処分所得

〇可処分所得-非消費支出=黒字

次に黒字からの支払いとしての「実支出以外の支払い」を区分し

黒字-借金返済部分・財産購入部分・貯蓄とならない保険料部分=残り

〇残りを貯蓄として「預貯金」「保険料」「有価証券購入」

  以上のように段階的に区分して検討する必要がありそうです。

(小山 浩一)