情報・コラム

職業生活上のリスクの検討④~メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の間

前回までメンバーシップ型とジョブ型雇用それぞれを「人事管理特性」と「情報処理システム特性」という観点で整理してきました。メンバーシップ型は「集中的人事管理システム」と「分権的情報処理システム」を特性としています。これに対してジョブ型は「分権的人事管理システム」と「集中的情報処理システム」を特性としています。このうち、情報処理システムの観点からそれぞれの組織形態を示したのが鶴光太郎『「ジョブ型」の誤解を正す』(日本経済新聞202157日経済教室)です。この組織形態が図表1です。

図表1 組織形態の分類

図表1 組織形態の分類

図表1左側はジョブ型雇用における組織形態である「古典的(機能的)ヒエラルキー」です。情報処理が経営部門等センター組織に集中しているため、現業部門1と現業部門2の横の関係における情報共有は「なし」となっています。ジョブ型雇用では、業務指示がセンターから明確に示されることが前提になっています。さらに業務プロセスで発生する部門間(図表でいう「現業部門1や2」)の矛盾や後発的に発生する問題の解決(方法)のための意思決定は、センター組織が担うことになっています。言い換えると部門間で話あって(勝手に)決めて、決めた内容を経営等センターへ実質的に事後に近い形で報告するという形になっていません(ということになっています)

 ここで下線「なっています」という表現は、私の個人的危惧によるものです。これまでメンバーシップ型雇用制度慣行によって進んできた企業が「ジョブ型を導入する」といって新聞等で取り上げられています。この場合、経営陣も従業員もそれまでメンバーシップ型の雇用制度慣行のもとで仕事をしてきた人たちです。この人たちが人事コンサルタント等の手助けの下で制度(規定)を整備し、職務記述書を作成させ(実際、仕事をしている従業員に、自分の職務記述書を作成しろということから始まるケースが多いと思われます)て、ある日、「これでわが社はジョブ型雇用スタート」という話になっているようです。

さて経営陣あるいはその権限を委嘱されたセンター組織を担う人たちは各職務組織の横の情報共有がなくても仕事が進むように運営できるのでしょうか?あるいは後発的な問題が発生してきたときに調整と意思決定を「ジョブ型スタート!」といった日から、現場で勝手に話あって決めるな、俺たちが把握して意思決定する、その指示に従えと、スタンスを一転できるのでしょうか? 一方で現場を担う職務組織は、後発的に発生する問題を組織間で話し合って解決方法を改善しながら対応する、その改善に応じて、伸縮的な職務内容を(現場の判断で)「ある時ある仕事を誰かにさせる」(職務記述書なんかなかったし)というそれまで当たり前にやってきたことをやらなくなるのでしょうか?

メンバーシップ型とジョブ型の相違は、以上のように極端に見えながら、実際は連続的なもので、だからこそ不可思議な(つまり規定通りにならない)実態を生み出す可能性があると考えられます。この両者の関係が連続的な変化であることを理解できる図表があるので、以下、図表2に記載します。この図は青木昌彦(1989)『日本企業の組織と情報』で示されたものです。

図表2 

図表2 J企業とA企業(情報システムと人事管理特性)

図表2でみるとわかるように、人事管理特性や情報処理システムが集中的か分権的かといっても、それは連続的なもの(変化)です。強く集中的、ある程度集中的、少し集中的、少し分権的、ある程度分権的、強く分権的のような相違であり、コインの裏表のような相違ではないことがわかります。

「制度=規定」と考える人は、人事系のコンサルタントなどに多いように思います。この考えでは、規定を整備し、実行すれば「制度が変わる」ことになります。しかし、たとえば、それまで経営陣に事後報告さえすれば、実質的に現場組織間で話あって仕事の方法を変えたり、そのために職務内容を伸縮させて、担当する個々人の仕事を変えてしまえた会社が、ある日「今日からジョブ型雇用」といって仕事の進め方自体が変わることにはならないでしょう。したがって間違えると、形式はジョブ型(集中的情報処理システム)だけど、実態はあいかわらずメンバーシップ型(分権的情報処理システム)ということが生じえます。

このような問題を少し角度をかえてみる意味で「制度=均衡」という考えがあります。すなわち規定を整備し実行しても、実際にそこにいる人達がこれをどう受け入れる(あるいは受け入れない)か、人々がどう予想し、その予想に基づいてどう行動するかが問題だという考え方です。

上の例では、ジョブ型に変えた(規定を整備し変更した)けれど、そこで働く人たちが、「相変わらず経営陣やセンターからは不明瞭な指示しかでず、現場で話し合って改善しながら担当職務も伸縮させて、うまくやればいいだろう」と思って行動し続ければ、ジョブ型雇用制度慣行は実現しないということです。

さて次回は、人事系コンサルタントが「メンバーシップ型雇用をジョブ型雇用に変える」際にあげている類型(変化パターン)を取り上げ整理したいと思います。

(小山 浩一)